あの夏
あれから、何度目かの夏。
陽差しだけは、尚眩しい。
あの時、そこは、
行ってみたい場所、
触れてみたい空気、
感じてみたい気分、
だった。
でも今、そこは、
行ってみたかった場所、
触れてみたかった空気、
感じてみたかった気分、
かもしれない。
かつての心躍る思いは、
時を重ねつつ色褪せる。
あれから、何度目かの夏。
矛先を見失った好奇心が、
ここで、ただ燻っている。
陽差しだけは、尚眩しい。
MEMO
数年前、南仏にひとり旅をして、その時、泊まりたかったけれど、空室がなくて、泊まれなかったホテルがありました。
フランスの芸術家ジャン・コクトーの常宿だった、「WELCOME HOTEL(ウエルカムホテル)」。
ニースから車で20分ほどの場所にある、ヴィルフランシュ=シュル=メール(Villefranche-sur-Mer)という小さな港町にある、こじんまりとしたホテルです。
そこは、コートダジュールエリアとしては、そんなに贅沢なランクではありませんが、何しろ物語のあるホテルなので、オンシーズンの予約には余裕が必要なんですね。特に、コクトーが好んで宿泊していた、22号室と23号室なんかは、当然、なかなか空きがありません。
私はその年の南仏の旅を2か月前に決めたので、もちろん満室。ホテルに直接、何度もキャンセル待ちの問い合わせなどをしてみたのですが、その甲斐もなく、結局、近所にある「Hôtel La Flore(ホテル ラ フロール)」に滞在しました。
ちなみに、上写真は、「Hôtel La Flore(ホテル ラ フロール)」からの眺め。
港までは少々距離がありますが、悪くないというか、案外絶景です。こちらは「WELCOME HOTEL」よりも、もっとこじんまりとしたアットホームな印象。清潔できれいなホテルでしたよ。
でも、「WELCOME HOTEL」は港VIEW。
私は、こちら「Hôtel La Flore」のまぁまぁな絶景を眺めつつ、コクトーの息がかかった「WELCOME HOTEL」の空間を妄想しまくっていて、次回は絶対ウエルカムへ!と熱望していました。
現地にいる時って、望みがくっきり明確になる傾向ありますよね。感覚が野生的になっているんでしょうね。だから、その時、同時にアクションを起こせば、簡単にペロって実現できちゃう場合が多っかたりしますよね。
旅をきっかけに、生き方変えちゃう人、結構、多いですから。
で、です。
そんなに熱望していたにもかかわらず、結果、私はまだ、「WELCOME HOTEL」に宿泊していません。その後、パリには旅したものの、南仏には行っていないんですね。そう、数年前の好奇心が、宙ぶらりんになったまま。
だからと言って、でも、じゃぁ、今年行くぞ!というテンションではなくなっていますね。
そう、あの時の熱望の熱は完全ではないにしろ、ほぼ冷めてしまっていて、今年の場合は夏休みは家でのんびり本を読みたい、なんて思っていたりしているわけです。
あの夏の意気込みはまさしく本当だったけれど、あの本当は、今ここでは、既にセピア色。
で、気づいたのは、熱は冷めるってこと。だから、望みが湧いたら、即、行動しないと体験する機会をスルーしたままで人生が過ぎてしまうってことなんだな、ということ。
たぶん、私が南仏を旅したあの夏、泊まれなかった「WELCOME HOTEL」の前を通った時、翌月とは言わず、来年の予約とかをしちゃおう、といった軽い遊び心があったなら、翌年、再び南仏を旅して、1年前の熱望を叶えていたかもしれないな、とつくづく。
で、今回、何をお伝えたいかと言えば、望みが沸き上がった時こそが、動く時ってことです。そして、そこで動くと、人生も動いていくに違いない、ってことです。
これは、旅ばかりじゃなく、体験してみたいこと、食べたいもの、などもそうですね。
時々のボルテージが上がった旬を逃さないように生きた方が、彩あふれる人生になりそうだな、と思ったり。望みを望みのままでセピア色にしない、ということですね。
今となっては、むしろ、あの夏に足を運んだ、マントンという街にある、ジャン・コクトーの美術館に、心動いている自分がいます。もう一度、行きたいかも。